緑の月の読書日記

剣と魔法とドレスの世界が大好きです。ラノベと漫画のレビューを載せていきます。

龍のいとし子

戌島百花さんの作品です。

 

別シリーズですが、「払暁」を読んですっかりファンになってしまいました。この作者さんの作品であれば、間違いないと思って購入。やっぱる、間違いなかったです(笑)。

 

両親を亡くした主人公の前に、美貌の高校生周が現れます。亡くなった父親の知り合いらしく、主人公のことも知っているようだが、主人公は記憶になく。葬儀の席で、謎の化け物に襲われたことから、強制的に二人の逃避行が始まるが、、、主人公が、自身の知らなかった父親の顔を知ると共に、大切なものを発見する物語です。

 

払暁と異なり、異世界転生ではなく、現代社会に生きる中で出会う異形の者との交流が主題となります。作者さんらしい、静謐な空気の中で、主人公の自分を見つめなおし、過去の自分との出会い、そしてそこから大切なものを見つけていくのが主題となります。

 

払暁の時も思ったのですが、己に対して、とても厳しい主人公だなと。知らない内に護られていた、気づかない内に助けられていた、、、もちろん護られるのはありがたいし、助けてもらったらお礼を言いたいし、自分も助けたいけど、そんなに自分を責めることかな。ありがとう、じゃあダメなのか。作者さん自身の好みというか。これはもはや作者さん自身の性格なのでは、と思いつつ。あやかしの存在ももちろんですが、そんな風に、自分のために他社が傷ついたことに心を痛める、優しくて誠実な主人公が本作品の最大の世界観ですね。とてもやさしい物語です。

 

おしむらくは、前後編ではなかったことでしょうか。おそらく1冊にまとめるためだったと思うのですが、物語の進展がやや早急に感じました。作者さん自身も、1冊にまとめるためにかなりエピソードを削ったと言っていたので、本当はもっと沢山エピソードが盛り込まれる想定だったのでしょうね。

 

脇道のエピソードが多いとだらける一方、本筋に関係ない話が全くないと、それはそれで主人公の心の動きがどうしても早急になる。ここら辺はバランスの問題だし、作者さんの書き手としての力量や、物語の世界観や、読者の好みによっても異なるから正解はないんですよね。物語の性質上、続編が出る可能性は低いと思うんですが、機会があったら、省略したエピソード分のショートストーリーとか載せてくれないかな。

 

たとえ1冊の物語でも、書ききれないくらいのエピソードがある。それくらいキャラを作りこんで、初めてこれだけ読み応えのある物語になるのだなと、感服しました。